フィリピン会社設立|駐在員事務所と支店の違いを費用・税金・手続きで徹底比較
フィリピン・マニラへの進出を考える在比日本人・移住検討者向けに、駐在員事務所と支店の違いを費用や税金、手続きの面から比較。資本金や送金税、現地でのビザ・会社設立・生活のリアルと失敗しない選び方をやさしく解説します。

フィリピンへの進出を検討し始めると、必ず出てくるのが「駐在員事務所」と「支店」という二つの言葉です。名前は似ていますが、できること・必要な費用・税金の扱いが大きく異なります。
ここを最初に取り違えると、後から会社の形を作り直すはめになり、余計なお金と時間がかかってしまうのです。この記事では両者の違いをやさしく整理しながら、自分の会社にはどちらが向いているのかを判断できるところまで説明していきます。
要約
- 駐在員事務所は現地で売上を立てられず、情報収集や連絡が中心の形で、親会社から毎年3万USD(約168万ペソ、概算)の送金が必要です。
- 支店は現地で売上を立てて利益を出せますが、最低資本金20万USD(約1,120万ペソ、概算)が原則で、輸出割合や雇用人数などの条件で下げられる場合があります。
- 利益を日本の親会社へ送るときの支店利益送金税は、日本との租税条約により通常15%から10%へ軽減されます。
「どちらを選べばいいのか分からない」という最初の壁
| つまずきやすい点 | 実際に起きること |
|---|---|
| 安さだけで駐在員事務所を選ぶ | 現地で売上を立てられず行き詰まる |
| 情報収集だけなのに支店を作る | 費用が高くついてしまう |
| 目的を決めずに形態を選ぶ | ほぼ確実につまずく |
進出の相談で多いのが、「できるだけ安く始めたいので、駐在員事務所でいいですよね」という質問です。たしかに駐在員事務所のほうが費用は抑えられます。
駐在員事務所と支店は名前が似ていても役割が大きく異なり、最初の選択でつまずきやすい
ところが駐在員事務所はフィリピン国内で売上を立てることができません。商品を販売したりサービスの対価を受け取ったりした瞬間に、ルール違反になってしまいます。
これを知らずに契約を進めてしまい、「お客さんは見つかったのに請求書が出せない」という相談が後を絶ちません。逆に、本当は情報収集や市場調査だけが目的なのに、費用の高い支店を作ってしまう例もあります。
つまり自分の会社がフィリピンで「何をしたいのか」をはっきりさせないまま形態を選ぶと、ほぼ確実につまずきます。最初の入り口でつまずかないために、まずは両者の役割の違いをおさえることが大切です。
関連: フィリピン会社設立の第一歩|SEC(証券取引委員会)登録の流れと必要書類をわかりやすく解説 で詳しく解説しています。
なぜフィリピンでは形態の違いがこれほど重要なのか
| 形態 | 位置づけ | できる活動 |
|---|---|---|
| 駐在員事務所 | 親会社の連絡窓口 | 市場調査・品質管理・情報提供(売上は不可) |
| 支店 | 出先の営業拠点 | 現地での販売・利益の計上が可能 |
フィリピンでは、外国企業がどんな活動をするかによって、登録できる会社の形が法律で細かく分けられています。これは外資の参入をコントロールしたいという国の方針が背景にあるのです。
そのため日本のように「とりあえず会社を作って、やりながら事業内容を広げる」という進め方が通用しにくくなっています。
駐在員事務所は、あくまで親会社の「連絡窓口」という位置づけです。市場調査や品質管理、本社への情報提供といったお金を生まない活動だけが認められています。
一方の支店は、親会社の事業をそのままフィリピンで行う「出先の営業拠点」です。こちらは現地で売上を立てて、利益を出すこともできます。
この違いがあるため、必要な資金も税金もまったく変わってきます。次の章で、それぞれの作り方を具体的に見ていきましょう。
駐在員事務所と支店、それぞれの作り方
| 項目 | 駐在員事務所 | 支店 |
|---|---|---|
| 出資金 | 毎年3万USD(約168万ペソ・概算) | 原則20万USD(約1,120万ペソ・概算)/条件により減額 |
| 売上・利益 | 立てられない | 立てられる |
| おもな税金 | 所得税・VATなし | 法人税25%・VAT12%・支店利益送金税 |
| 登録手数料 | 送金額の0.1%(最低2,000ペソ) | 送金額の1%(最低2,000ペソ) |
どちらの形でも、フィリピン証券取引委員会(SEC)への登録が出発点になります。あわせて、現地で書類や訴状を受け取る「居住代理人(レジデント・エージェント)」を立てる必要があります。
SEC登録や居住代理人の選任、出資金の送金まで、設立の段取りを順に進める
大きく違うのが、必要な出資金です。出資金は法律上ドル建てで決められているため、ここではドルを基準にして、ペソと円の概算を添えます。
駐在員事務所は、親会社から毎年3万USD(ペソ換算で約168万ペソ、日本円で約450万円、いずれも概算)の送金が求められます。これは事務所の運営費にあてるお金で、利益を出さない前提のため、所得税やVAT(付加価値税)はかかりません。
支店の場合は、最低資本金として20万USD(約1,120万ペソ、日本円で約3,000万円、いずれも概算)が原則となります。ただし、先進的な技術を導入する場合や現地で一定人数を雇う場合は、10万USD(約560万ペソ、約1,500万円、概算)まで下げることが可能です。
さらに、売上の6割以上を輸出するような事業であれば、資本金は約5,000ペソ(日本円で約1万3千円ほど、概算)まで大きく下がる仕組みもあります。自社の事業がこの条件に当てはまるかどうかで、用意する金額は桁違いに変わってくるのです。
書類の面では、両方とも親会社の取締役会決議・最新の監査済み財務諸表・定款などを用意します。これらはアポスティーユ(外国公文書の認証)が必要になるため、母国側での準備に時間がかかりがちです。
登録時の手数料は、支店が送金額の1%、駐在員事務所がその10分の1(0.1%)で、どちらも最低2,000ペソ(約5,000円、概算)と決められています。SEC登録だけなら2週間ほど、銀行口座の開設や各種登録まで含めると8〜12週間を見ておくと安心です。
この銀行口座の開設も、慣れないうちは戸惑いやすい部分です。私は2024年に、マニラ在住の60代男性がBDO(フィリピン大手銀行)で普通預金口座を開くお手伝いをしました。賃貸契約書・パスポート・公共料金の証明書などをそろえ、オンラインで予約しておいたので、当日の待ち時間はほとんどありませんでした。通帳はその日に受け取れましたが、デビット付きのカードは発行に1週間ほどかかり、ATMでの有効化も必要でした。送金証明や口座まわりの段取りは、一度経験者と通せば次から自分でも動きやすくなります。
税金の面では、支店は利益に対する25%の法人税と、売上にかかる12%のVATが基本になります。さらに利益を日本の親会社へ送るときに支店利益送金税がかかりますが、日本とフィリピンの租税条約により、通常15%のところ10%に軽減されます。
関連: フィリピンでの法人銀行口座開設が「難しい」と言われる理由と対策|マニラで会社設立後に困らない準備 で詳しく解説しています。
現地で実際に起きること、そしてその備え方
| よくある困りごと | こうすれば大丈夫 |
|---|---|
| 書類が予定どおりに出ない | スケジュールに1か月ほどの余裕をもたせる |
| 代行費用が後から膨らむ | 追加費用の有無を契約前に確認し見積もりを書面でもらう |
| 回線や役所のシステムが不安定 | 予備回線を用意し午前の早い時間に動く |
| 形態の選び間違い | 将来現地で稼ぐ可能性を最初に考える |
書類の手続きは、予定どおりに進まないことが多いです。SEC内部の確認や認証の取り直しで、「来週には出ます」と言われた書類が一カ月後になることも珍しくありません。
書類の遅れやシステムの不安定さも、余裕あるスケジュールと事前確認で乗り切れる
ここで慌てないために、スケジュールには最初から一カ月ほどの余裕をもたせておくと気持ちが楽になります。
代行業者に依頼するときは、料金トラブルにも注意が必要です。最初に提示された金額に、後から「認証費用」「翻訳費用」などが上乗せされ、請求が膨らむことがあります。
対策はシンプルで、契約前に「これ以外に追加費用は発生しますか」と一文で確認し、見積もりを書面でもらっておくことです。これだけで、後からの過剰請求はかなり防げます。
通信回線や役所のシステムが不安定で、オンライン申請が途中で止まることもあります。大事な手続きの日は、回線の予備(スマホのテザリングなど)を用意し、午前中の早い時間に動くと、トラブルに巻き込まれにくくなります。
私自身、こうしたオンライン申請のつまずきには何度も付き合ってきました。2025年には、マニラ在住の50代女性がTIN(納税者番号)を取得するお手伝いをしました。自宅のパソコンで海外の仕事を受けるようになり、報酬の振込にTINが必要になったためです。BIR(内国歳入庁)のオンラインシステムから申請したものの、入力情報の不備でそのままでは進めず、窓口まで同行しました。窓口では2〜3時間ほどで、特に問題なく発行されました。オンラインで止まっても、原因を見極めて窓口で直せば、たいていその日のうちに片づきます。
そしてもっとも多い失敗が、形態の選び間違いです。駐在員事務所で始めたあとに「やはり売上を立てたい」となると、支店や現地法人へ作り直すことになり、費用が二重にかかります。
だからこそ、「将来は現地で稼ぐ可能性があるか」を最初に考えておくことが、いちばんの節約につながります。
ここまで困りごとを並べてきましたが、すべてが大変というわけではありません。日本で20年ほど美容師をしていた方がマニラで美容院を開くお手伝いをしたときは、許認可(DTI・市の営業許可・BIRなど)が思ったよりすんなり通り、若いスタッフもすぐに見つかりました。フィリピン人の奥さんとの結婚を機に、奥さん名義の法人と13(a)ビザ(フィリピン人配偶者向けの在留資格)で完全に合法な形に整え、物件の保証金から内装・機材まで初期費用は全部で約30万ペソでした。開業から5年たった今も来客は絶えず、はじめの一歩さえ正しく踏めば、現地での開業は十分に現実的だと感じています。
関連: フィリピン上位中所得国入り|在比日本人の生活費・投資・ビザ対応ガイド で詳しく解説しています。
よくある質問
Q: 駐在員事務所のままで、少しだけ商品を売ることはできますか?
A: できません。金額の大小に関係なく、フィリピン国内で対価を受け取る行為は禁止されています。販売や役務提供を考えているなら、最初から支店や現地法人を選ぶほうが安全です。
Q: 支店と現地法人(現地で作る会社)は、どう違うのですか?
A: 支店は日本の親会社の一部で、親会社が現地の債務まで責任を負います。現地法人は別の会社として独立するため、責任の範囲を切り分けやすいという違いがあります。
Q: 出資金は一度に全額を送る必要がありますか?
A: 駐在員事務所の3万USDは、登録時の送金証明として求められます。支店の資本金も送金証明(インワード・リミッタンス)の形で示す必要があるので、口座への入金と証明書の取得をセットで考えておくと進めやすいです。
Q: 日本から行かなくても登録はできますか?
A: 書類の認証や代理人を活用すれば、渡航せずに進められる部分も多いです。ただし銀行口座の開設などで現地対応が必要になる場面もあるため、信頼できる現地サポートを確保しておくと安心できます。
まとめ
駐在員事務所と支店は、名前こそ似ていますが、「売上を立てられるかどうか」で役割がはっきり分かれます。情報収集や連絡だけなら駐在員事務所、現地で稼ぐなら支店、というのが大きな目安です。費用や税金、必要書類も形態によって変わるので、まず「フィリピンで何をしたいのか」を決めることが、最短ルートになります。
とはいえ、自社の事業がどちらに当てはまるのか、輸出条件で資本金を下げられるのかなど、判断に迷う部分は必ず出てきます。そうしたときは、フィリピンで実際に移住と会社設立を経験した立場から、状況に合わせて具体的にお手伝いできます。
進出の形で迷ったら、マニラ日本人サポートの無料相談を気軽に使ってみてください。最初のひと手間が、後の大きな失敗を防ぎます。
参考・出典
- 駐在員事務所の設立ガイド(InCorp Philippines): https://philippines.incorp.asia/guides/how-to-set-up-a-representative-office/
- 支店設立ガイド(Acclime Philippines): https://philippines.acclime.com/guides/branch-office/
- 駐在員事務所ガイド(Acclime Philippines): https://philippines.acclime.com/guides/representative-office/
- 支店の制度・税務の解説(Lawyers in the Philippines): https://lawyerphilippines.org/branch-office-philippines-control-liability-taxation-and-process/
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